6回生の夏季学生実習の人たちへ

先日の医学教育学会では、多くの大学病院の先生方が、学生教育におけるクラークシップ導入の必要性を感じ、病歴、身体所見の重要性を強調し、各大学では独自にそれを努力目標にし、教育しているということであった.我々の病院では、毎年、初期臨床研修医が約10名採用されるが、残念ながら卒業直後の5月には、系統だてた身体所見を誰もがとれない.また、病歴においても、学生時代によく勉強していた研修医なら、たとえば胸痛の鑑別診断は可能であるが、実際の患者の表現から何がもっとも考えやすいかと質問しても答えられない.なぜなら、真の患者の病歴を聴取する機会がないためである.

出身大学を問わず、研修医に学生時代にうけた身体所見についての教育方法をきくと、彼らは順序よい系統立てた診察の必要性より、これが異常所見であるからおぼえなさいという教育を受けている.しかし、実際の臨床では、異常があるかどうか未知である多くの患者から自分自身で異常所見を検出する能力が必要となってくる.指導医よりここに異常所見があるといわれて正解を答えられても、自分自身が患者から陽性所見を検出できなければ役にたたない.

夏休みになると我々の病院にも1週間以内の日程で学生が実習にやってくる.短い間に彼らに何を教えればよいのか;我々のやっている実際の医療現場を見せることも大切だし、身体所見ならびに画像診断の陽性所見を提示することも大切である.しかし、私はいつも次のように言っている.「順序よい系統立てた身体所見の取り方と正常所見を勉強したらどうか?これは医師国家試験には役にたたないが、医師になるとすぐに必要な知識である.君が卒後2年間も引き続き、適切な指導医のもとで異常所見をもつ多くの患者から学べば、必要な身体所見を必ずとれるようになる.また、はじめは身体所見をとるのに1時間を要しても、なれれば5分でとれるようになるのがわかる.」と.しかし、順序よく診察することの大切さを説明しても、短期間の研修ならその重要性を理解してもらえなかったような気がする. 

日本の大学のベッドサイド教育は、平均的に各内科の2週間という極めて短い期間である.教員側はこの短い期間で学生に何を期待できるのか.病歴および身体所見の取り方のすべてができるようになるのはとても不可能である.一方で、約1年後に医師国家試験が待っているのでどうしても陽性所見を教えがちであり、教育が簡単な画像診断に走りがちである.

学生実習におけるクラークシップはもちろん重要であり、その時にできるだけ多くの患者を診ることが大切である.しかし、それと共に順序よい系統立てた身体所見の取り方の教育が必要である.学生時代のうちに、異常所見をマスターすることは不可能であるが、最低その方法と正常所見を理解し、義務づけらるであろう卒後2年の研修期間と連続性をもつことで最低限の身体所見がとれるようになると思われる.